令和元年台風第19号により、栃木県足利市でも大きな被害がでました。
社会生活は、自助(自分を助ける)、共助(お互いが助ける)、公助(行政機関などが助ける)で成り立っています。事件事故など生活で支障が発生した場合、普段なら公助にも支援を求めることができます。しかし、大きな災害の場合、行政は災害対応に追われ、平時における「〇助」のバランスが崩れます。
実際、足利市役所の職員は水害対応(土のうを積む、避難所開設)などに追われ、台風19号が最接近した時点で、市役所からのSNS発信が止まりました。(10/12 18:00から21:33の間、Twitterの更新が止まる。台風が足利へ近づき影響が大きくなる時間帯)
私が編集長をつとめる足利経済新聞は「台風19号 足利市まとめ」を作りました。台風接近時から被災後までホームページ、SNSなどで情報収集していましたが、市内でまとまった情報が得られないと思い、被災後にまとめページを開設。随時更新しています。
地域メディアに関わって来年で10年になります。今回の台風情報を収集していく中で気になったこと、自分が気をつけたことを自分用のメモも兼ねてここに書きます。
正常化バイアスは誰にでも起こる
足利市を流れる一番大きな川が渡良瀬川です。1947年9月に発生した「カスリーン台風」。足利市だけで死者・行方不明者321名の被害を受けました。この台風被害の歴史は足利市内の小学校へ通った人なら防災教育で教えられます。このおかげで他地域に比べて足利出身者の水害意識は高いと思います。しかし、「渡良瀬川が大丈夫なら足利は大丈夫だろう」という認識もうまれます。恥ずかしながら私自身も似たような状況で、自宅の近くに袋川があり、度々越水しているのは知っていたので主に渡良瀬川と袋川の水位情報をチェックしていました。
正常性バイアス
異常事態に直面しても正常の範囲内であると判断し、平静を保とうとする人間の心理傾向のこと。「正常化の偏見」とも称される。(コトバンクより)
災害情報は2種類。手動更新と自動更新
足利市役所のSNS発信が止まったことを先ほど書きましたが、これは人が作業しないと発信できない手動更新です。台風接近時、私は手動更新の情報もチェックしていましたが、自動更新の情報に重きを置いてチェックしました。以下、私が主にチェックしていた情報です。
- 消防・防災情報メール
足利市消防本部から発信されるメールです。システム化されており、当時、レベル4の避難勧告も送信されました。このメール登録は必須だと思います。登録していない人はぜひ。注意点はエリア別で配信されないため、受け取ったメールが自分の住むエリアなのかを毎回読んで判断しないといけないことです。今回のような災害時は、メールが頻繁に送信されるため、読み逃しの恐れもあります。 - ヤフー 天気・災害情報の河川水位情報
河川水位情報は国・県などの河川管理事務所のホームページでモニタリングデータから自動更新されますが、災害時にはアクセス増大で公のホームページは閲覧できなくなるほど表示が遅くなります。これはホームページを管理するコンピューターの仕組みが今の時代にあってないからですが、そこはお役所なので・・・。私が一番おすすめするのはヤフーのページです。注意点は、河川水位のレベル表示が河川で統一されていません(河川等級、設備に影響している?)。例えば、渡良瀬川や袋川の水位は5段階表示ですが、今回はん濫した旗川は下から3段階の表示ではん濫した時点でも警告の赤表示にならず黄色表示のままでした。
その情報は誰が発信したのか
公の情報発信が止まると焦ります。風は強くなるし、雨は窓を叩きつけるように降ってきます。事態は悪化しているはずなのにその情報が市役所から発信されない。自宅に居て「このまま家に留まってもいいのだろうか」「自分の今の判断は正しいのだろうか」と。ついTwtter、Facebook、LINEのアプリを開いてスマホが手放さなかった人も多かったのではないでしょうか。
実際、様々な人がSNSに書き込んでいました。読んでいて注意したのは「誰が情報発信したのか」「情報の出典元はどこか」です。SNSなら書き込み者のプロフィールが公開されています。例えば極端な話、プロフィールや直近の投稿を見ると足利にいる人ではなさそうなのに「いま足利は〇〇になっている」と書き込まれた情報は果たして判断に値するかを考えた方が良いです。非常時だからこそ特に情報の出典元に気をつける必要があります。「台風19号 足利市まとめ」では、出典元を明記する、リンクを貼る、確認時間を掲載することを意識しました。
自分が発信する情報はしばらく経っても正しいか
当時、発令情報をスクリーンショットを撮ってSNSにアップする方が結構いました。これを私はあえてやりませんでした。画像を貼らず出典元(ヤフーなど)のURLを貼り付けて書きこみました。理由は、自分が見た時点では正しい情報であっても、被災中というすぐに変わりそうな情報をSNSに流すことにリスクを感じたためです。
例えば、21時に「いまこうである」とスクリーンショット画像付きでTwitterに書き込んだとします。確かにこの時点では正確な情報です。しかし、SNSに書き込んだ情報を書き込んだ瞬間に誰かが読むとは限りません。21時に書き込んだ情報を3時間経って読んだ人が状況は変わっているのに3時間前の情報を元に誤った判断をする可能性があります。自分が良かれと思って発信した不正確もしくは古い災害情報で人が亡くなってしまう可能性はゼロではありません。
さいごに
正直に言って、今回の足利市役所の情報発信は評価できることがありません。当時下記の内容をSNSに書き込みました。
足利市は災害時の情報発信はもうちょっと考えた方が良いとは思う。実際は多くの職員に参集が掛かっていて、台風の中、現場で対応されてる。懸命にやっている職員がいるのに、情報発信が微妙で「市役所は何をしている」という残念な書き込みをネットで散見する。勿体ないです。 #ashikaga #足利市
— 山田 雅俊 (@jp_yamada) October 12, 2019
足利市役所ホームページで公開されている人事行政情報を見ると、残業代が近年右肩あがりです。このデータから市役所の人手は常に足りていないことが読み取れます。普段から人手が足りていないのに、災害時の対応を行い、さらに市内全域の情報確認と情報発信をこまめにするのは不可能だと思います。
市役所や議会でも今回の災害対応の反省点・改善点が話し合われると思います。ただ、これだけだと市民の声がなかなか反映されません。SNSで「市役所なにやってんだ」「情報発信がダメすぎる」と書き込んでもそれは一個人の感想にしか過ぎません。月日が経てば忘れられる情報です。市役所へ電話で文句を言っても窓口対応されて終わりです。
「市役所なにやってんだ」と憤りを覚えた方は、メールや書面で市役所へ提出することをおすすめします。非難だけ書いても鬱憤が晴れるだけなので「私が見た情報は〇〇だった」「ここはこうした方が良いのではないか」とご自身が災害時に置かれた事実と改善提案を入れると良いと思います。
またいつかやってくる自然災害に備えて自分たちの出来ることからはじめてみませんか。
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